忘れられた言葉を覚えている。

「まわりに上手な人がたくさんいて…」というのを「人と比べなくていいんだよ」と諫めてくれた。あんなにはっきり言われたのはひさしぶりで、心の中に強いものができたようでとても嬉しかった。酔っていたとはいえ、自分のことを肯定されたような気がしたから。

私の心に残る言葉を言った人はたいていそのことを忘れてしまう。きっとこれも忘れられてしまっただろう。私に向かって発されたという記憶と宙に浮いたままの言葉だけが何年も残ることを、いつも不思議に思っている。