ラ・ラ・ラ・ヒューマンステップス「amjad」@彩の国さいたま芸術劇場


光と影のコントラストが美しい舞台美術とミニマルかつ高速なダンスが特徴のカンパニー、ラ・ラ・ラ・ヒューマンステップス4年ぶりの来日公演。今回は古典も古典の「白鳥の湖」と「眠れる森の美女」をモチーフにした日本初公開の作品。「amjad」というタイトルはモロッコ語で男女双方を指す名前であり、この2つの古典作品が上演された時代に取り入れていたオリエンタリズムを示唆している‥‥とかなんとか、アフタートークエドゥアール・ロックが言っていた気がする。

衣装はすべて黒と白の無彩色。女性は最後に一瞬白いワンピースのダンサーが出てくるも、基本はチュチュなしの黒いレオタードにトゥシューズ。艶めかしいのだけど、逆にダンサーの筋張ったスタイルと高速の動きのために強さが感じられる。男性は基本黒のスーツで、ときおり半裸のシーンがあり、その時はどことなくニジンスキーっぽい柔らかさが感じられたりする。
この無彩色の衣装が方向の切り替わる照明と相まって、ものすごい印象的な残像を作り出す。古典の白鳥が白い羽根を持つ優雅な白鳥だとしたら、これは機械仕掛けの黒鳥だと思った。コンテンポラリーにもクラシックにもあり得ないスピードでぐるぐるとピルエットをし、ブリッジで飛び立つ仕草をしているのに、足を括り付けられて引き戻されているような動きをする黒鳥。まるで機械が痙攣しているかのような美しさ。両手や足を上下させると照明効果でものすごい残像が起こり、人間にも関わらず本当に羽や尾羽をばさばさとはためかせているように見える。背中から羽根が生えるなんてファンタジー物やアニメがあるけれど、もしかしたら本当にそういうことがあるかもなと思えるくらいに。

延々と続くカルテットの生演奏をバックに、高速でなまめかしさと切なさと多少のグロテスクさを表現するダンサーたち。ただ後半で場面が全く切り替わったようにドローンノイズがメインになる部分があって、個人的にはそこがとてもよかった。モノクロームな色合いとミニマムな対象、チリチリと耳の奥に聞こえるノイズ、この辺が相まって、ダンスの舞台なのにどことなくデヴィッド・リンチの世界というか「イレイザーヘッド」の雰囲気があると思えたから*1
ダンスの高速さやダイナミックさ、いろんな部分で面白く興味深く見られたのだけど、やっぱりこのカンパニーはマリオ・ジャコメッリと同様に「光と影」の演出が素晴らしい。ケヴィン・シールズに釣られて見に行った10年前の「Salt」から「アメリア」を経て、今もその良さは変わっていなくて嬉しかった。

彩の国さいたま芸術劇場 http://www.saf.or.jp/

*1:その辺の意図はまったくないと思うので、あくまで個人的に