5月21日(土)X-tra2011@Liquid LOFT

DJ YO*C,TOMO/GUEST DJ SHINKAWA/Live PA YO*C+BUS featuring KAORI

  10〜20代の私はクラブに毎週のように行っていたが、その中でも私を作ってくれたと言えるようなパーティがいくつかある。関西ならAUTONOMIAや喜怒哀楽やCHAOS WEST、関東だとこのX-traやCLUB LOVELYあたり。どちらも込みでClub Venus。そんな中でもX-traは思い出深くて、90年代後半はまだ学生で関西にいたから東京にはそんなに行けなかったけれど、金沢GYMや大阪NEOはほぼ皆勤で行っていた。最初の頃はYO*CのDJが目当てだった。でもそのDJすら他のクラブで聴く時と違うテンションがあるような気がしたし、ひたすら明るくて、楽しいと言える独特の雰囲気が充満していた気がする。それはきっと、DJやお客さんの感じやバーカンのスタッフさんとか、いろんな人たちが協力して場を作っていたからだと思う。そういう意味でも、やっぱり自分の中でもこのイベントは特別な記憶になっている。
 周囲には今もパーティをやったり、DJを続けたりしている人が多いけれど、そこまでになれなかった私は、昨今はつかず離れず、情報は得つつ行きたいなと思っているような状況だった。そんな日常の中で、あのパーティが「一夜限りの復活」なんて話があれば心が躍らないわけがない。
 TL上に流れてきた情報をメモし、予定を入れる時は22日夜〜23日午前をひたすら避け、iLoudの懐かし対談を読んでは「X-tra クラシックス20選にCASINOが入ってへんやん!」と叫ぶなどして当日を待った。

 当日になり、少し早めに偵察にでも…と会場前に行った途端、何年も会っていなかった金沢の友人に再会。日が近づくにつれ「そういえば私、上京してきたから当時一緒に行っていた子が誰もいない」と思う時もあったがまったくの杞憂だった。待ちきれず集まり始めるお客さん(結構いい大人たち)を牽制するスタッフさんの言葉を交わしつつ待っていると、20分ほど前から屋内での整列を許される。新宿リキッドルームの階段待ちと言えばX-traのお約束事項だった、と思い出す。15年前に発行されたメンバーズカードを持ってきた友達がいたり、そんなのもう持ってないよと笑う友達がいたり、オープンまでの時間を友達と話しつつ楽しむ感じも懐かしい。すると、サウンドチェックで聞こえてきたのは、まさに20選にも選ばれていたStretch 'N' Vern「Get up! Go Insane!」。「誰もいない今からそれかけんの(最高)!?」とそこら中がみな一気に笑顔に変わっていった。

 オープン後のトップは以前と変わらず平田さん。「Get up! Go Insane!」やCe Ce Peniston「Finally」とアガる曲がどんどんと繋がれていく。最初からギアの入った調子に、時代は変わっても紛れもないX-traだ! と嬉しくなった。「feels like HEAVEN」は、映画「リング」の主題歌化で意外な形に名を馳せたけれど(日本人がよく知るテクノツートップに数えてもいいと思う。もう一つはFBS「Because We Can」)、なんとなく本来の場に戻ってきたようにも感じた。
 平田さんの選曲は、当時からYO*Cに比べるとより編集者視点が強かったのかもしれない。自分の好きなジャンル内の時流を追っていくというより、今流行っているジャンルを丸ごと横断していく感じ。だからこそ、X-traってこんな曲までかかるっけ? と思えるようなブレイクビーツ系やトランス系が一緒にかかっていたりもしたんだろう。言ってみれば、楽しさの傍らに「この頃はFAT BOY SLIMが流行ったな」とか「この頃にはプログレッシヴハウスからトランスに呼び名が変わったな」なんて時代を読み取ることができる史実価値もあるってことだ(ちょっと大げさかもしれないが)。こういう横断的な選び方は、興味の有無に関わらずいろんな音を聴く環境にある人でなければ難しいから、Loudを率いる平田さんだったからこそできたことなのかもしれない。対談にも少し書かれていたが、いい意味でのチャラさがあって、間口が広くてみんなで楽しめるパーティ。その個性を水面下で固めていたのは、実はこの人の曲選びにあったんだと今になって思う。
 基本、ブース内で踊る担当はYO*Cで平田さんはごくクールに繋ぐ人だった印象だけど、この日は本当に嬉しそうに見えた。そしてDJさんがみな嬉しそうだったのは最後まで変わらなかった。

 その後はYo-C+BUS featuring Kaoriの「BeatPerLove」ライブ。この曲がリリースされたPARATONEは、X-traがあったから生まれたとも言えるレーベルだった。当時の時流に沿った、明るくメロディアスなトラックに女性ヴォーカルが乗ったハッピー系の歌物に人気があった。特にこの「BeatPerLove」は、YO*Cの実妹KAORI嬢がヴォーカルを取っていることもあり、パーティの山場にライブで披露される事が多かった。その流れすらもそのまま、しかも今回は当時ほとんど姿を見せなかった中の人・BUSさんがキーボーディストとして参加する新たなスパイスも効いていてちょっとびっくりした。ライブではやっぱり本人の声が聞こえない位の合唱の嵐。これこそX-traならではの曲であり、フロアのみんなに愛されている曲なのだ。

 1曲目のDJ SHINKAWA「res Q me」がかかった途端、一気にファンが押し寄せて前列がモッシュ状況に(そんな所まで変わっていない)。そんな“みんなのヒーロー!”シンカワさん。レジデントでこそないが準レギュラー扱いだと思っていたら、やはりゲストで最多登場だったらしい。この日はいつものようなシンセ多めのハードハウスが多かった気がする(Tidyやuntidyのイメージ)。でも、その合間にYO*C+TOMO featuring RIE「Angel」などの歌物を入れて盛り上げていく流れがあって、それが本当にすばらしい。これぞプロという感じ。ちなみにこの「Angel」は先に出したPARATONEレーベル物のひとつ。シンカワさんリミックスの方がよくかかっていただけにシンカワさんのDJで聞けて嬉しかった。
 そして恐らく、この日1、2を争う盛り上がりだったのが、Trouser Enthusiasts「Sweet Release」とSTRIKE「Inspiration」のかかった時だった。どちらも歌いあげ系の壮大な歌物。特に「Inspiration」は、1996年のリリース以降も人気が衰えることがなく、この15年必ずどこかで誰かがかけ続けるというクラシック化しないクラシックトラック。それあだけに、フロアの全員が歌っているんじゃないかという程の大合唱が止まらない。ロックでよくある(OASISなんかがかかった時に多い)「レコードのボーカルパートをお客さんが歌う」あの光景が、テクノのパーティなのに再現されている。大合唱のすごさに、この曲も本当にみんなが大好きな曲なんだと再認識した瞬間だった。さらに「My House Is Your House」(誰のバージョンかは忘れてしまった)ではシンカワさん自らジェスチャー付でフロアを煽る。盛り上がりはその後も衰えることなく続いた。この時点で午前3時半。まだYO*Cが控えているだなんて!

 迷彩のX-tra Tシャツに身を包み、René Et Gaston「Conte De Fées」を携えたYO*Cが登場。最初にちらっと「今日絶対面白くなると思うんで!」と言ってたのは嘘じゃなかった。もう何がかかっても楽しい、何を聴いても踊りたいしかなかった。私自身があまり最近クラブに行っていなかったことがあるとはいえ、それを差し引いても余りあるパワーがあったと思う。10代の頃は新鮮さも手伝ってよく思っていた「休んだらもったいない」という感覚を、また感じることができたから。
 ハードコア生まれハッピー経由な人だけに、BERRI「Sunshine after the Rain」のハードコアミックス(は初めて聴いた)にFORCE MASS MOTION「V.N.E」、CANDY GIRLS「Fee Fi Fo Fum」などの速いトラック物をかましつつ、SUNDANCE「Sundance」系のキラキラハウスもきっちり聴かせてくれた。選曲が懐かしくて嬉しいことは間違いないけれど、本来YO*CのDJに関しては、実は曲が有名かどうかはあまり関係がない。その音とプレイだけで「ああなんだか楽しそう!」と思わせてくれるからすごいのだとずっと思っている。今日は特にブースとフロアが近かったから、楽しそうなDJの様子がよく見えた。時々スクラッチを入れながら、周囲の友人と話しながら、いろんなことを平行してどんどんレコードを繋ぐ。何度も見たことがある光景なのに、やっぱりすごいと思ってしまうのはなぜだろう。先に書いたように、平田さんがX-traの個性を水面下で固めてきたなら、YO*Cはこんな風に思わせるキャラクターと華やかなDJスタイルで、アイコンとしてパーティのイメージや雰囲気を表立って作ってきた人だ。本人にその意識があるかどうかはわからないけど、私はそんな風に思う。

 騒音問題やレンタル時間などが厳しくなった今では、終了時間が延びることはずいぶん稀になった。でも、そんな昨今でも昔からの「YO*Cが時間通りに終わる方が驚き」スタンスは踏襲されており、この日も当然のようにアンコールで延長。総合すると1時間半ほどもやっていたらしい。この1曲! という位の勢いだった曲がCDの不具合で突然止まるハプニングもあったけれど、フロアの勢いはそんなレベルでは衰えるはずがない。この頃になるとMAYURIさんやQ-HEYさん、その他LoudやX-traに縁のあるDJさんたちがブース周りに集まり始め、ラストに向けて踊り、Loud200号の前祝いシャンパンを回し…と、どことなくマニアックラブの再現であるかのようなすてきな空間ができていた。 

 ブースもフロアも境がなくなったお祭り状態の中で何度目かのラスト(笑)にかかったのが、心待ちにしていたCASINO「Only You」! 個人的にX-traで一番よく聴いた記憶がある曲だけに本当に嬉しかった。さらにPIANOMAN「Blurred」(うちのと違うFFRR盤だった!)にMOBY「Feeling So Real」というハッピーでレイヴな雰囲気で終了。気付いたら外はすっかり明るくなっていた。
 懐古主義だけに終わらない力がそこにはあった気がする。終わった後で、いろんな初期衝動や初心を思い出したというのか、6時間半は踊っていたから死ぬほど疲れているのになぜかとても元気が出てきた。多分パーティをやっている人はそこに還元するだろうし、私のように、クラブ関係ではなくてもまた頑張っていこうと考えた人もいるはず。平田さんのコメントを見ると、今後の開催もなきにしもあらず、のようだし、毎月でなくていいから今後も時々やってほしいと思う。こんなに楽しい気持ちになれるんだから。
 昔の私は、パーティで感じたわくわく感と楽しかった心持ちを残しておこうとしてクラブダイアリーをつけ始めた。今日もその時と同じものを感じたから、こうしてクラブダイアリーとして記しておくことにする。その曲はかかっていないよ、など間違っている部分があったらぜひ教えて下さい。

 会えなかった友人たちも多くて残念だったけど、みな同じ楽しさを感じているようですごくいいパーティだった。参加のみなさんお疲れさまでした。

YO*C http://yo-c.net/
iLoud http://www.iloud.jp/

(以下、かかった曲など)

Stretch 'N' Vern presents Maddog - Get Up! Go Insane! (Rock 'N' Roll Mix)
http://bit.ly/sS7a6

Ce Ce peniston - finally [sharps system vocal]
http://bit.ly/m64c3w

Trouser Enthusiasts「Sweet Release」
http://bit.ly/j2gtT7

Yo-C+BUS featuring Kaori「BeatPerLove」
http://bit.ly/d3GZFZ

DJ SHINKAWA「res Q me」
http://bit.ly/7RzfsK

YO*C+TOMO featuring RIE「Angel」(オリジナル)
http://bit.ly/mx8BMV

STRIKE「Inspiration」
http://bit.ly/bECf9j

René Et Gaston - Conte De Fées
http://bit.ly/7jrSCU

Berri - Sunshine After The Rain
http://bit.ly/10Ld7V

FORCE MASS MOTION「V.N.E」
http://bit.ly/aH3QPk

CANDY GIRLS「Fee Fi Fo Fum」
http://bit.ly/h6BsOn

SUNDANCE「Sundance」
http://bit.ly/kaYHll

CASINO「Only You」
http://bit.ly/ila0TP

PIANOMAN「Blurred」
http://bit.ly/kjTCmD

Moby - Feeling So Real
http://bit.ly/9mT8ya