かもめ食堂

映画の原作は群さんの書き下ろし作品なのだそうだ。すでに映画版のキャストを知っているからか、文字を追っていると小林さんや片桐さん、もたいさんがかもめ食堂で働いているシーンが勝手に思い浮かぶ。性格の設定や雰囲気がぴったりだ。

何もなく平穏だけれども温かい日常。そんなふうなお話だと思っていたのにそうではなかった。舞台となる食堂を開くのはありえない境遇とキャリアに裏打ちされた女性で、そこには明るいバイタリティがみなぎっている。意外や意外、パワフルなお話なんだな‥‥と思っていると、集まってくる女性たちがなかなかのリアリティを表現していた。人生に疲れたり困ったり、道に迷ってふらりとフィンランドにやってくる、いい加減に年齢を重ねた女性たち。もしかしたらこういう人はいるのかもしれないと思うような。

ほっこりというにはパワフルで、疾走感というには少し遅い。むしろゆったりと進む感じ。文章で読むこの作品は、なんとも不思議な時間軸と空気感だった。