NDT I @新宿文化センター

theklf2006-06-30

オランダのダンスカンパニー、ネザーランド・ダンス・シアター Iをようやく鑑賞。何度かびわ湖ホールに来ていたのにことごとく逃していたので嬉しい。「I」は劇場付カンパニーのうちでコンテンポラリー系を中心に取り扱うグループとのこと(初めて知った)。今回はイリ・キリアンの新作、ポール・ライトフット&ソル・レオン、ヨハン・インガー各振付の短編を3本上演。ひとつのカンパニーで毛色のまったく違う作品を3本もいっぺんにやった公演は初めて見た。かなり幅広い表現力を持つところなのだなあと感心。


●イリ・キリアン振付「トス・オブ・ア・ダイス」
3本のうちで一番ミニマルで抽象的。
床に吸い付くように低くなめらかなコンテンポラリー特有の動きはNDI Iでも同じで、いちいち感心してしまう。その身体コントロール力は、ステージの上には重力がないのではないか? と思ってしまうほどだった。そんな動きやちょっとした仕草には鋭さや硬派さがたくさん見えたので、イリ・キリアンはかなり男性的な振り付けをする人という印象を持った。
舞台効果や演出なども含めてみても、コンテンポラリーダンスらしいコンテンポラリーダンス。音楽はノイズとミニマルの中間。アイデアの元となったステファン・マラルメ『骰子一擲』が、作品全編にフランス語で朗読されていた。ラストに近づくにつれ、イントナルモーリ(イタリア未来派の騒音発生楽器)でも使われているんじゃないかというくらいの地響が重なってきて、音にかなりの迫力があった。
舞台は終始暗く、一筋(もしくはスポット)の光が差し込む程度。でもその暗闇に天井からつり下げられたミラー製の抽象オブジェが光を乱反射させていて、その光景がとても美しかった。ああいうライティングはユダヤ美術館の内側から見る眺めのようになんとなく思える。
ヨーロッパの前衛的な要素をいろいろと集めるとこういうダンスになるのかも。


●ポール・ライトフット&ソル・レオン振付「サイニング・オフ」
一転して、フィリップ・グラスのヴァイオリン曲を使った、どちらかといえばクラシック要素が強めの作品。衣装も黒を基調とした1作目とは正反対、白を中心に軽やかさのある古典的な雰囲気だった。激しく派手やかな音楽と相まった美しい作品。20分程度でちょっと短く感じるくらいの時間なのもよい。
カーテンが下に落ちて上がるとダンサーが違う人に入れ替わっていたり、2枚のカーテンだけで迷路のような区切られた空間を作ったり。最小の用具で最大限の効果を出す舞台演出に感心した。


●ヨハン・インガー振付「ウォーキング・マッド」
ラストはミュージカル要素の入った親しみのある作品。ジャケットコートに山高帽の男性、ワンピースの女性と衣装も身近な感じだし、ダンサーが客席を通ってステージに上がったところで作品が始まったり、ダンスにコミカルなパートがあったり、途中からお揃いの三角帽をかぶったダンサーが走り込んできたり、かなり楽しい演出で客席からも笑い声が起こっていた。曲がラヴェルの「ボレロ」でエレガントなだけに、コミカルさが引き立っていたのかもしれない。こちらも一面の移動式木壁を効果的に使って、壁の裏と表、空間の縦横を入れ替えたりしていた。その割には悲しい結末だったような気がする(話の筋があまり読めなかったのだが)。


NEDERLANDS DANS THEATER I http://www.ndt.nl/