そういうわけでM-1の感想

感覚的に思ったことをとりあえずいろいろ書き流し(すごい長い) 。あと相当言いたい放題です(すいません)。
(敬称略)

【ファースト】
1)POISON GIRL BAND 570点 「ファッション」
1番手と決まった時点で相当厳しそうな感じはしていたが、あれほど辛い展開になるとは思わなかった。ポイズンなのにテンポが微妙に速め(特に吉田)で、終始地に足が着いていない感じがした(彼らのカラーとは違う意味での浮き足立ち感があった)。個人的に「マグロを履く」以降のチューブトップのくだりが面白かったのに、エンジンがかかってきた途端に終わったという印象。D関の時もそうだったけど、吉田はこういう大舞台で緊張して100%の力を出せないことが多い気がする。ああいう場だから緊張して当然だし仕方の無いことなのだろうけど、いつもは面白いのに、と残念だった。


2)フットボールアワー 640点 「フットボールアワー戦隊」
新ネタではなかったけど、「またか」というよりは「やっぱり面白い」という感想。彼らのすごさの一つに「演目中ずっと笑い声が途切れないこと」というのがあると思うんだけど、今回もやはり4分間ずっと断続的に笑いが起こっていた。
主題歌を引っ張って引っ張って「そろそろ!」という言葉が出るまで放っておくとか、格好いいキャラ(岩尾)とオチキャラ(後藤)のコントラストが明確であるとか、一つ一つの要素に初めて見た人でもちゃんと笑えるわかりやすさがある。しかも「チェック・イン!」以降の畳みかけるツッコミとボケの応酬は相変わらず圧巻だったし、「断固チェンジ!」辺りのアドリブも含めて何度見ても面白い。ネタの起承転結のメリハリとテンポの良さ、安定感ではやっぱりずば抜けているコンビであることをファーストで改めて証明したと思う。
講評時でも松本との掛け合いで笑わせてくれたり、決勝出演順決めの時に田村をいじったりと、全コンビで後藤に一番余裕があった気がする。


3)ザ・プラン9 597点 「財布を拾う」
漫才かどうかを評価するよりは面白いか面白くないかを評価した、という渡辺正之の講評におおむね同意。ネタはそれなりに面白いし、縦に並ぶスタイルも新鮮だったし、時々灘儀の突発的な動きの面白さなんかも混ぜ込みつつも一つの作品としてはきちんとまとまっていたと思う。でも、面白いかと聞かれると、可もなく不可もなくという印象。
5人で漫才をやる必要性を追求して今回の決勝にようやく残ったという話を聞いていたから、そういう努力をすべて無にする南原清隆の講評はかなり衝撃だった。ある意味その努力は伝わらない人には伝わっていないと言っているものなわけで、視聴者の私ですらちょっと切なくなった。
これは採点とかM-1その物には関係ないけど、終わってから灘儀が少しだけディランをやったのが嬉しかった。


4)麒麟 627点 「ボクンシング」
爆発力という点では弱いけど、まとまりがあってカラーがあってここで笑えて、という定番の良さを感じさせる漫才だった。
彼らは川島の掴みとか声のトーンで落ち着いて見られそうなイメージがあるが、実は常に何かしらの不安定さを感じさせる(盛り上がってくると覿面に噛む回数が増えるとか、アドリブになりきっていないアドリブとか。それがいい時もあるけど)。でも、ある時期以降のルミネでは殆どこのネタしかやらなかっただけに自信があったのか堂々としていたし、実際にとても安定感が感じられた。特に驚いたのが田村のアドリブ対応力。ここしばらくで顕著になった感があったけど、ここに来てさらに上手くなっていたのでびっくりした。
ネタはいつも通りだったけど、リングアナのくだりが少し長めになっていたり、リングネームが「Is this a 田村?」から「My name is 田村」に変わっていたり、「右ストレート! お客さんから見て左ストレート!」の前に東西南北で言い換えるボケが入れ込んであったりと、本編を崩さない程度にリミックスが施してあったので何度も見ていたネタでもそれなりに新鮮さがあった。
個人的に嬉しかったのは、特に最後の「モノマネまったくできひんねん」〜「ほんならこの件いらんわ!」の流れ。完璧に定番ネタとして見ていた私にも、今まで彼らになかった新しい(予選でやっていたのかもしれないけど私は見ていないので)展開が入ったことでそこの部分が余計に際だって見えて面白かった。これまでの「物マネが上手な麒麟」というイメージを逆手に取っていたのが新鮮でよかった。さらに、これまでは川島が田村の様子を見ながらボケていく印象が強かったが、この部分では川島が割と自由にボケていて、それをきちんと田村が引っ張っている感じがあった。田村の足がしっかり地に着いていたというか、ボケとツッコミにおける力の強弱が今までとは微妙に違っていた気がする。
この流れの後で出た「麒麟はお前がしっかりせえ!」発言は、今後「頑張れ俺たち!」に匹敵する田村語録としてファンの間で幾度となく引き合いに出されると思う。心温まった。


5)トータルテンボス 613点 「グルメレポーター」
彼らの言語センスがとても好きなのだけど、今回に限ってはそれを強調しすぎていたのが気になった。あれはそういう独特な部分をナチュラルにやっているから面白いのであって、イントネーションの話とかをしだすと途端に「ネタ」の一つになってしまってつまらなくなってしまうと思う。あとラーメン屋のネタで引き合いにだすネタが「今それやるの?」という今更感を感じさせた。こだわりの素材を聞いてその回答とずらして褒めるボケやレンゲのくだりは面白かっただけに残念。ただ、彼らが「今日のハイライト」を使わなくてもきちんとオーソドックスな漫才を見せてくれたところや殆ど噛まずにポンと耳に面白い言葉を届けてくれるトーンは健在だったので、また別のネタをたくさん作って笑わせてほしいと思う。


6)チュートリアル 664点 「冷蔵庫」
昔から彼らの漫才は面白かったけど、ここ1年で加速度的に面白さがあがっていった感じがある。彼らのネタのディテールの細かさとか作り込みの丁寧さは当然として、そういう勢いが加わったこともあって初めから期待度が高かったコンビ。とはいえ、あそこまで笑わせてくるとは! あの点数になるのも納得だった。というかこれでチュートが行かなかったらもう今後はないな、と思えるくらいの勢いもこの時から既に感じられていた。
 冷蔵庫をまるで福田が嫁さんをもらったかのように見立てていくネタは、いろんな番組や単独ライブでもおなじみ。本来はもっと長くて(チュートの漫才は基本的に一つのネタが長め)「何冷やすの」という掛け合いが執拗に続いていくはずなんだけど、それを4分にしても面白さがきちんと残っていたので感心した。その辺の手腕はやっぱりさすがだと思った。相変わらず徳井の妄想の爆発ぶりやテンポのよさ、言葉の選び方が最高に良かった。さらに、この妄想をとまどいながらも受け止めていく「ニュートラルな存在」としての福田の表情とか返しの言葉が素晴らしい。限りなく普通の人の反応になっているからこそ、徳井の妄想がこれでもかと際だっているのだと思った。最初の紹介ビデオでは徳井の事ばかり言われていたけど違うと思う。実際、初期から徳井のトーンはそれほど変わっていないので、やっぱり福田の存在がチュートの面白さの成長に寄与しているはず。その辺は審査員の誰かがもっと言ってあげるべきじゃないかと思った。

去年の「バーベキュー」では「ホームページ」と「CSのチャンネル」で今年は「blog」、ちゃんとWeb1.0からWeb2.0に移行してるのが面白い。来年あたり「ワンセグ」とか言い出しそう。というか「YouTube」とか入れてくれたら最高に面白いのに! という期待があながちない話でもなさそうだからすごく楽しみ。それから「おい! 細いぞ!」で笑いが起こらなかったけど、あれはファンしかわからないよね‥‥。というか重ね着で福田の体型がわからない冬の季節だと損だ(笑)。


7)変ホ長調 576点 「ヒルズ族と合コンしたい」
初見で真っ先に思ったのは80年代の古くささ。男の子にモテたいとかの恋愛系ネタは女子として共感する部分があるし、言葉のチョイスも彼女たちが言うからこそ笑えるポイントもあったし、面白い部分はあった。でも、あれだけ騒がれていた割には特に強烈な印象を残してくれたわけではないから、正直どうしてこの人達が決勝に通ったのかと思ってしまう(すみません)。しかも、間と言葉遣いと展開に強烈な既視感があったのが最後まで気になった。ロートーンのぼやき漫才ということだと、80年代に不思議系ネタをやっていた女子コンビ、メンバメイコボルスミ11なんだけど、それに近いといえば近いかも(向こうの方が100倍スタイリッシュだったけど)。


8)笑い飯 626点 「子供のしつけ」
こちらもすでにおなじみのネタ。「お箸の持ち方」や「手洗いうがい」という一歩間違えるとただの説教臭くなりそうなテーマをものすごいレベルで笑いに還元していくネタは哲夫らしいチョイスだと思う。あの中に教科書的要素(「はしたろうくん、以下はしA〜」以降)を入れ込んでくること自体はすごく面白かった。個人的に西田の「ちょっとちょっとちょっと」っていうあのトーンや「俺30超えてるけどだいぶ早い時点で見失ったぞ」という飄々とした突っ込みが好きなので、もう一つネタが見たかったという気はする。おにぎりのボケでの「私もよばれよ」という関西のおばちゃん甚だしい言葉とか、「おかか入り」「具はどうでもいいねん!」とか言葉がどんどんねじれて行く展開はやっぱり笑い飯ならではだった。スロースターターって言われていたけど、あのロートーンの部分があってこそ後半のダブルボケが際だつわけで、そう見るとショートカット技術の難しさも見えた。
全体的な印象としては麒麟と同じように、定番の良さを感じさせる漫才という感想になるから、1ポイント差というのもすごく納得できる結果。麒麟笑い飯はどっちが残ってもおかしくない均衡具合だったし、あとはもう審査員のネタの好みによる判断だったんじゃないかと思う。
ただ、彼らの場合は他のコンビとの競争以前に、やっぱり「奈良県立歴史民俗博物館」という最高傑作があるだけに、どんな新ネタをやってもどうしてもそれと較べられてしまうという難しさはあると思う。ライバルが自分たちっていうのは本当に大変だろうけど、彼らが優勝するのはそれができた時なんじゃないかという気もする。


9)ライセンス 609点 「ドラえもん
10年目ラスト枠。予選の評判では専らライセンスかとろサーモンという話だったので、多分お客さんとの判定の間に乖離は生まれてなかっただろうし、あの過酷な状況で勝ち残ってきたのはやっぱりそれだけの実力があるんだと思う。実際、ネタ一つ一つのポイントを外さないところは10年目ならではの安定感があって安心して見られた。ただ、このいろんな「ドラえもん」は昨今面白いと思われるネタの寄せ集めになっている印象がぬぐえない。ヤクザネタはプラン9鈴木、オタネタは天津、アメコミはプラン9なだぎ、とそれメインでやっている芸人の名前がすぐ浮かぶ位だから、それではやっぱり本戦で勝ち上がれないと思った。


【ファイナルステージ】
1)麒麟「田村探検隊」
実は初見だったので比較対象がないのだけど、初めて見て面白かったかと言われれば面白かったし、思わず笑ってしまうし、ネタとして彼らならではの当て振り漫才としてきちんとまとまっていた。でも優勝しそう? と聞かれたらそれはないなという感じで、良くも悪くも毎年のレベル。というか相変わらずファイナルで噛みすぎ。ただ、「隊員は2人に減った」「なんでやねん!」「セリフを噛むからです!」のくだりに見られるように、その辺をネタにしっかり取り込んで笑いに還元してしまう川島のアドリブ能力はやっぱりすごいと思った。あとiPodの音漏れの物真似はものすごく上手で、イヤホンを外した時の音の変化もぴったりだったのが観察力の素晴らしさを感じさせた。


2)フットボールアワー「居酒屋の店員」
これも過去ネタ。基本の「三角形のテーブル」とか「肉声席」とか最大ネタの「びっくりメンチカツ」のくだり、「冬の取り皿フェア」とかちょっとしたアドリブもあって、それぞれのやり取りは面白かったんだけど、全体的なネタのまとまりとか面白さはファーストの方が良かった気がする。しかも、ちょっとトーンが去年の麒麟にも似ていて、どこか勢いだけで押してしまった感がぬぐえない。このネタはハイテンションが売りだからいいと言えばいいんだけど、それが微妙に投げやりに見えてしまって残念。あと後藤の返しが一体どうしたんだろう、と思うくらい珍しくグダグダだった。


3)チュートリアル「チリンチリン」
これも噂では聞いていたけどきちんと見るのは初めて。こちらも(おそらく)自転車のベルを彼女に見立てた妄想の展開。途中でいきなり山崎まさよしの歌の歌詞を入れてくる辺りも面白いし、テンポも言葉の使い方も最後の壊れっぷりも返しもとにかく言うことなし。漫才とコントと演劇の要素が全部入っている完成度のすごく高いネタだと思う。というか、途中で「これで優勝しなきゃ嘘、というかチュートの来年はない」と思うくらいのレベルだった。


審査員講評ではやっぱり中田カウスの愛溢れるコメントが聞いていて嬉しかった。大竹まことも必ず注意点を指摘しつつ褒めるコメントで、まさに叱咤激励という言葉がピッタリ(これはABCの審査員の時と同じ)。島田洋七の割とニュートラルな講評、まっちゃんの感覚的な評価は相対的評価にすごく重要だと思うんだけど、南原清隆はあそこにどうして入ってくるんだろう。演劇的な評価をするんであれば内村の方だと思う。実際、相当有名なコンビばかり出ているのに対して「殆ど見たことない」発言とかも考えられない。それから島田紳助のコンビに対してじゃなくて常にイベント全体の講評になっている所がすごく気になった。