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柴崎友香『星のしるし』(文藝春秋
この歳になると(怖い意味ではなく)何か拠り所を持ちたくなった事が女子には多分誰にでもあって、そういう感覚をものすごく上手に形にしてある。情景描写と目に見えない感情の表現はこの人の得意とするところであるから、今作でもその期待を裏切らないと言える。おじいさんが亡くなるシーンなんかの、昔みたいに純粋な悲しさよりもどこか乖離したような感覚とか、自分から離れた部分で自分を見ているような感じとか、実際に体験されたのだろうかと思ってしまうくらいに生々しい。自分が最近人の死を見たから余計にそう思えるのかもしれないけど。
寺田町や長居公園、石切、玉造、天王寺、滋賀、大和川学研都市線、知っている地名とその描写が出てくるところもいつもと変わらない。なんとなくでも知っている土地感覚をつなぎ合わせると本当に彼らがその土地にいるんじゃないかと思えてくる。そして私たちも知っている若者の言葉だけでなく、年配の人の口調が本当にある言葉だというのもその感覚を後押ししている気がする。お葬式の話をしている時の「墓の守を誰がするやら」、家の話をしている時「似たり寄ったり」という言い方。都心から少し離れた周囲に住む関西のおばちゃんは、確かにあんな喋り方をするしああいうリズムで話をする。
目に見えないからUFOもあるかも知れないと思うし、自分の心や将来が見えないから占いや何かにすがる。そういうのは別に悪い事じゃない、自分の背中を押してくれるものだとみんなわかってやっている。そんな気持ちを一周回った形で作品に出来る観察力がやっぱりすごいと思った。

星のしるし

星のしるし