はかなきもの

グラスが割れてしまった。
あ、と思った時にはもう遅かった。手を添えようかどうか迷っているうちに、うす緑のグラスはかしゃんと音を立てて割れた。派手な音ではなく、ガラスにしては小さい音だった。

こちらに来てすぐいくつか身の回りのものを買い揃えた。グラスもたしか、その時に買ったもののひとつだった。とても気に入って買ったのに、どこでそれを見つけたのか思い出せない。あのお店だったろうか、という記憶がうっすらとあるだけ。

はかなきものは出会いの記憶もはかないものなのかなと思ってしまう。うちでの存在はちっともはかなくなかったのに。