枇杷の木

先週の話。

突然東京にやってきた父を、同じく突然東京にやってきた弟と迎えに行った。地下鉄には乗りたくなかったので、中央線に乗った。快速電車はぐんぐんとスピードを上げて東京駅へと向かう。「テストが終わったから」と弟はいい、「出張に来たから」と父は言った。同じ日に家族がやってくるという偶然を思いながら、弟と並んで席に座る。東京駅まであとすこし。

市ヶ谷の駅で、突然目の前に大きな枇杷の木があらわれる。線路にはみ出すようないきおいで、ぶわあと窓の外に。鈴なりにぶら下がる枇杷の実は、どれもうすくて明るいオレンジ色。みどりの葉の中に埋もれるようにぷちぷちと顔をのぞかせている。なんだか嬉しくなって、わあ、びわやでびわびわ食べたいなあ。と話しかけたら、弟はキョトンしてこちらを見ただけだった。

電車の走る間に、すっかり窓の外の枇杷の木はなくなっていた。