V.A/TURNTABLE LAMBORGHINE

 彼女が自分のDJについてあまり語りたがらないことをよく知っている。それはいたって表現者らしい心持ちだと思う。作品より雄弁な解説が本人からされる作品なんて、嘘くさいもの以外の何物でもない、とも思う(まあそれは、少し言い過ぎかもしれないが)。言いたいことは作品が一番よく表しているもののはずだから。

 でも聴かないとそれはわからないことであり、聴こうと思うには興味がわかなくてはならない。だから私はこのレビューを書くことにした。人は圧倒的な主観を交えた耳で音を感じており、その感じ方が人によって異なることは知っている。だから私が書いたように聞こえない人がいることも知っている。
 それでも今日はここに書いておこうと思う。彼女のことを知らない誰かが、このミックスを聴きたいと思ってくれることを願って。

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V.A/TURNTABLE LAMBORGHINE DJ Mixed by ANIKI

 逆回転とヴォイスサンプリング、カットイン。テクノのミックスでありながら、どことなくNWとロック色が混ざり合うカッティングギター(いわゆるヴィタリック系のデケデケロッキンテクノ)にスクラッチ。のっけからテクノ枠をとっぱらったミクスチャー感覚、黒さ満点のファンキーなヘヴィベース。四つ打ちでありながらまったく退屈に聞こえないのは、こんな選曲のおかげだろう。ミックスだけ聴けば、これを作っているのが女性だとは到底思えないようなゲットー感覚満点の男前ぶりなのだ(シカゴ系ミックスの下品度に比べると仕上がりが上品に聞こえるのは、女性ならではの良さというべきか)。

 ファンキーハウスではPHUTURE「We Are Phuture」や彼女がその好き度を公言して憚らないGREEN VELVET「La La Land」、ディスコはRAUL RINCON feat. BROK LANDERS「Happy Station」、ミニマルハードハウスならDAZ SAUND & BEN TISDALL「Juggernaut」やJEFF MLLLS「The Dancer」、そして流れに彩りを添えるかのようなCHRISTOPHER & RAPHAEL JUST「Popper」、ほかホワイトのネタ物も含めていわゆる「レコードボックスにいつも入っている」曲で個性を出す。そこにRAPTURE「House of Jealous Lover」などNW系ヴォーカルハウスものを潜ませることで、昨今のクラブミュージック全体の流れを聴かせ、2006年らしさもきちんと表現。そして引っかかりのあるビートが独特なニュースクールブレイクス、PARADOX 3000 Vs KASABIAN「Processed Breaks」へと続いていく。
 後半に進むほどジャンルもBPMもハードになり、加速度を増していくのがいい。ラストに向かって畳みかけていくようなミニマルハードハウスの疾走感には、(知っている人なら)スモークとフラッシュが炸裂する難波ROCKETSのフロアにいるような高揚を感じることができるはずだ。
 最後はGROOVEYARD「Watch Me Now」〜JORIS VOORN「Incident」の流れで終わる。ミラーボールのきらめきがふっと消えてしまうような、その代わりに朝方の光が差し込むような空気感。家で聴いているのにもかかわらず、そんな風にクラブパーティが終わったかのような後味があるのが不思議。

 そして聞き逃せないのが、ヴォイスサンプリングネタもの好きならではの小技。3曲目のNARCOTIC SYNTAX「The Drumpads Of Jericho」での女子の朗読(スパンク・ハッピーの岩沢瞳による朗読を思わせる)は、10曲目のSIMON「Free At Last Vocal」のキング牧師の演説とリンクしているかのよう。意識的なものかどうかはわからないが、私には「わかる人だけに」と彼女がこっそり潜ませたギフトに思えてならない。

 ファンキーハウス〜ディスコ〜ロッキンブレイクビーツ〜パーカッションハウス〜ミニマルハウスまでカバーするバランスには、やはり伊達にDJを10年もやっていないなと感心させられた。加えて、このミックス全編の根底にあるのは黒いグルーヴと疾走感。それから、私たちの世代が聴いてきたDJ諸氏の素晴らしさを、彼女なりの理解で咀嚼した感性。例えば紀平さんのリズム感、YO*Cのディスコ感とアッパー感、フミヤさんのクール感がそれだ。

 この中に込められた空気と時間は私を妙にワクワクさせる。そして外に出なくちゃ面白いことにはたどり着けないと焦らせる。そんな気持ちになるミックスだった