泣く(ほんとうに)

好きな映画は? という質問には「三月のライオン」と間違いなく答えるが、好きなマンガは? と聞かれるとちょっと困る。困って数冊を選ぶと、たいていその中には必ず鈴木志保の『船を建てる』が入っている。彼女の作品は当時『ぶ〜け』に連載されていたらしいのだが、きっと読者には難解だったろう(『なかよし』や『りぼん』より年齢層は上だったはずだが)。それは、彼女の書くものが、ある程度振り返ることができるだけの記憶や時間を持った人でないと感じにくい何か、を空間に含めるようにして描いているからだと思う。


最近買った『ヘブン…』もそう、むしろ『船を建てる』の時よりもこの傾向は強くなっていた。プルーストの『失われた時を求めて』ではないけれど、すでに失われた時間ともう戻ることのできない懐かしい記憶。時間軸が一方向にしか進まない人間ならではの切なさが、「ゴミ捨て場に住む少女と動物」というかわいらしい登場人物の裏に隠されているのだ。必要最小限の言葉と花の名前、背景、黒より白。何もないところにすべてがきちんと収められた世界。マンガにしては広すぎる空間から、そのゴミ捨て場が何を指すか、彼らがどういう存在なのかも次第にわかってくる。


本当に彼女の作品はストーリーと時間軸の交差するさまが美しい。それがイラストと重なりゆっくりと悲しみを誘うので、どうにも言いようのない気持ちになって思わず泣いてしまう。

夜はどうも涙腺が弱くなっていけない。

ヘブン…

ヘブン…