よしなしごと

大学の教授とおぼしき人たちが、講義録の書籍化について打ち合わせをしていた。こんな雰囲気は(東京では特に)ひさしぶりだった。
京都では喫茶店に行けばこういう光景にはわりと出くわす。そういう話がある場所にはそういう空気が流れている。それは本郷の喫茶店でも感じたこと。どこでもなんとなく似た雰囲気になって、自分が昔その端っこにいたこと、まだ守られていた頃のことを思い出すから落ち着くんだろう。あの物を突き詰める(でも普通の社会では生きていけなさそうな、だから大学という壁で外界から守られていそうな)研究者たちの独特な空気はロマンが感じられて好きだと思う。

そういう場から遠ざかってもう何年も経ったけど、あの頃「毛利先生がね」って話をしていた友達は、もう准教授くらいになっているんだろうか。九州で政治学をやっていて、at the drive inが好きで、留学先から「TONKAが曲を作っているよ」ってローカルなアーティストを教えてくれた女の子。私は椹木野衣が『remix』で書いていたTHE KLFとサンプリング・カットアップを絡めた現代美術論(『シュミレーショニズム』の元になった文)を読んで、そっちに行けばサブカルチャーと学問が混ぜられて面白そうだ思って進学を決めた。だからそういう部分で彼女と考え方に似たところがあって、よくメールのやりとりをしていたのだけど、いつの間にか連絡もつかなくなった。

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最近の東京大学出版会の出す本が異様に凝った装幀だとは思っていたけれど、『ACADEMIC GROOVE』には別の既視感があった。まさに『i-D JAPAN』でやっていたAJ(アカデミックジョッキー)のページの感覚。あのミクスチャー感覚が大好きだったけど、もうそれも普通になるだけの時間が経っているのだ、という話。

ACADEMIC GROOVE―東京大学アカデミックグルーヴ

ACADEMIC GROOVE―東京大学アカデミックグルーヴ

テストは嫌いだった。でも勉強はつまらないものではないと思っていたし、今でもそう思っている。だからこの本につけられた『真の学問の場には,独特な「わくわくするほど楽しい雰囲気」が漂っています』という紹介文はそうだと思う。こういうパッケージングをしないといまや学問に興味を持ってもらえないのか(東大を選ぶ子はそんな配慮をしなくても選びそうだけど)、純粋に遊び心によるものなのかはわからないけど、それでもその一文に関しては本当のことだ。院の授業になるとどんな教授も圧倒的にいきいきして見えた、という思い出が端的に証明している。
東京大学出版会 http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-003330-5.html